「あなた、自分の音、聴いてる?」
この本はこの一節で始まっています。
実は「弾く力」と「聴く力」は別なんです。
弾けているからといって聴けているとは限らないのです。
私自身もこの問いについてこれまでの自分の演奏を改めて振り返ってみると、聴けていなかった時期が長いことありました。
これは私の幼少期から大学受験前までのピアノ人生の大きな欠点であったと思っています。
今回、この本を読んで、自分のことと重ね合わせていろいろと考えてみました。
その一つをご紹介しますね。
「どうしたらピアノを上手に弾けるんだろう?」
こどものころからずーっと私が抱えてきたこの疑問。
「たくさん練習すること」と当時師事していた先生はおっしゃり、私はそれを信じて毎日ひたすらピアノに向かっていました。
たしかにそのお答えは正しかったと思います。
しかし、それと同じくらい大切なもう一つのこと、「よく聴くこと」が重要だということを私は教わらなかったのです。
そして自分でもそのことに気づくことができませんでしたが、こんな疑問は常に持っていました。
「自分のピアノ、このままでいいの?何か足りないんじゃない?」
そんな時、ある転機が。
大学受験の直前、高校3年生の夏の終わり。
とあるきっかけで、今まで師事していた先生とは別の先生に私のピアノを聴いていただいたときです。
その先生は私の演奏を聴いてこうおっしゃいました。
「音に色彩感がなく、聴いていておもしろくない。
もっと自分の音を聴いて!
でも、あなたはずっと疑問を持ってきたんだね。
『何か足りない、自分はこのままじゃいけないんじゃないか』って思い続けてきたんだよね。
そう思ったってことは変われるよ。
今からどれだけ変われるかわからないけれども、できる限りのことをやってみましょう。」
それまで自分の音色について何の指摘もされてこなかったのです。
自分の演奏の欠点を思い知ったと同時に、「そこさえ変えることができればこの先もっともっと上手くなれるんだ!」
と、これまで曇っていた疑問に晴れ間がさしかかったような気持ちにもなりました。
志望校をその先生が教授をしていらっしゃる大学に変え、試験曲も一からやり直すことになりました。
しかし、そこからが本当に大変な日々でした。
受験まであと数ヶ月しかない。
先生のお部屋に半ば合宿状態で受験前の日々を過ごしましたが、やはり、小さいときから「自分の音をよく聴く」、という訓練をしてきた他の受験生には到底追いつくことができませんでした。
結局、第一志望に合格できませんでした。
私にはこんな過去があります。
ですので「聴く力」の重要性を身をもって感じ、生徒さんにはぜひ小さいうちから「聴く力」をつけてもらいたい、よい耳を持って欲しいと思って指導しています。